2010年3月5日

幼い記憶の見るマンガ

幼い頃、貸本屋をしていたという叔母の家に行くと廃業した後もそのまま漫画本が並んでいました。
その家に行く度読み漁っていたのですが、今思えば凄まじいラインナップでした。
山川惣治氏の「少年ケニヤ」やら少女向け単行本シリーズ、とある大御所の単行本デビュー作、とある大御所ホラー作家の初期ハードボイルド作品。
etcetc、何でもかんでも置いてありました。
いくらでも持って帰っていいと言われ、時々何冊か選んで持って帰った内田。
しかし、ある時私は全くメンテナンスされずボロボロになったその本の数々に見切りをつけてしまったのです。

至って真剣に、もとい深刻な表情でバケツを持って立たされる主人公。
空を仰いで陥った境遇に絶望する主人公がアオリで大きく描かれ、それをまた影から見守りつつ涙するヒロイン。
場所は校庭の大樹の下、クライマックスに相応しく。
屈辱を受けて涙するという表現は真面目に捉えるべきシーンだったのにも関わらず、笑わずにはいられなかったそれ。
姉とふたリ大喜びでツッコミ入れてましたっけ。
そのインパクトにあれだけ笑わせてもらったというのに何故捨ててしまったのか。
それどころか持って帰るべき本ならもっと沢山あったじゃないかと、先に立たない後悔を噛み締める内田。

その中で特に印象深い作家さんがいました。
失礼ながら好きな絵どころか私の悪夢の原点のような、なんとも忘れがたい作家さんです。
しかし現在検索を掛けてもほとんど出て来ません。
勘違いでなければ池上伸一さんという方で、ホラー漫画の作家さんの中では比較的「コワくない」絵柄の方でした。
ホラー漫画として狙っているのにドン引き要素が少なく、それでいて何やら忌まわしさだけは満点の絵柄。
その作品の中に「なんか怖い」印象だけはあるもののホラージャンルであると明確に規定されない物語があって、忘れられない理由の根源になっているのです。
その理由は後にうっすら理解できました。
なぜならその作品は私が幼い頃から繰り返し見てきた大好きな映画、「わんぱく戦争」をベースにしていたからです。
あまりにも映画の印象とかけ離れた絵で表現された子供の世界。
それは禍々しいイメージを放っていました。
しかし、子供の持つ世界のとてつもない真剣さ、敗北が意味する喪失の大きさは同様に感じ取ることが出来たのです。

再びあの感覚を体験したらがっかりして気が抜けてしまうのでしょうか。
あるいは同じ衝撃に出会えるのでしょうか。

追記: GTAさんよりお名前は池上伸一さんではなく池川伸一さんであるというご指摘を頂きました。
もう一つ覚えのある池川伸治さんの検索も合わせ私の探していた作品にはまだ辿り着けませんが、まずはもやもやが晴れてすっきり致しました。
ありがとうございました。

6 件のコメント:

  1. 検索してみました。
    もしかして「池川伸一」さんではないでしょうか。
    何冊か絶版情報やオークション情報が出てきます。

    ぶしつけなコメントで申し訳ありません。
    月刊DUOで内田さんを知って以来、ずっと読んでます。

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  2. GTAさん

    コメントを頂きありがとうございます。
    そうですそうです、川で沢山出てきますね。
    ただ実は「池川伸治」さんという名前もあって、同一人物なのかどうかが判らぬままでした。
    そちらも川で検索したら出てきましたが、何故かどちらも記憶の絵柄と微妙にズレた結果に。
    その方の作品であることは間違いないのですが…
    人の記憶に相当な主観フィルターがかかることは常々理解しているつもりでも、やはり無意識のレベルを超えていますね。
    わざわざご指摘くださってありがとうございました。

    DUO以来とは、長期に渡って忘れることなく見ていただいているんですね。
    とても嬉しいです、感謝です!
    どうぞまたお気軽にお立ち寄りくださいませ。

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  3. 僕が、ちゃんとペン入れをした「漫画」を描くきっかけになったのは、貸し本漫画でした(^.^)。さいとうたかおさんや、白土三平さんの漫画が大好きでした。上京した後に、夏休みに帰省したときに、貸し本屋さんめぐりをして、めぼしい単行本を売ってもらいましたが、地元の貸し本屋は既に和田慎二の通った跡(後で知った)。でも、東京に戻った後も含めて、けっこう手に入れることができました。残念ながら、手塚治虫さんの本はあまり手に入りませんでしたけど(^_^;)。

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  4. kaeruさん

    をを。kaeruさんの原点のお話を伺うのは初めてです(^-^)そういう時代でしたよね。
    さいとうたかおさんの本は多かったですね、叔母の家にもかなりありました。
    ハードボイルドのジャンルが結構な数を占めていたのかな。
    和田さんの通った跡(笑)それは面白いエピソードです〜。
    手塚さんの作品が手に入らないというのは、当時から品薄だったということでしょうか。
    貸本の時代は本がとても大切なもので、手にした時のワクワク感が好きでした。
    デジモノも大好きですが当時のあの本の香りは得難いものだなあと思います。

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  5. 先生の原点って、その、貸本屋さんかな?
    DUOものすごく火s日差に聞いて、うれしく思いましたわ。
    あのころは、先生の作品を今か今かとまっておりました。
    私は、あまり漫画を読まなかったのですが、(べつに理由はない)私の、マンガ本を増やしたのが明らかに先生だったので・・・・・。
    そうそう、先生のデジモノも大好きですが、百万人とかの、あの、ズボンのしわも大好きです。

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  6. くまぷうさん

    少なくとも風景としては忘れがたく、漫画のとある時代を強く感じさせるものでしたね。
    でも元々それを見て夢見たり漫画家として生きようと思ったわけではないんですよ。
    幼稚園の時にはとっくに自分は漫画家になると決めていたし(笑)
    DUO…その時代いろんな体験をされたであろう中、くまぷうさんの意識に残ってこられたなんて。
    きっかけを作る役目になれたのは凄いことですよね。
    時代を共有して今こうしてそんなお話をさせて頂けることは、私にとって何より勇気と励みになっています(^-^)

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